ピアノの仕組みーピアノの鍵盤数の歴史②

こんにちは。木山音楽教室ピアノ講師の石田真亜沙です。

ピアノの仕組みシリーズ、第三回目の今日はピアノの鍵盤の数がどのようにして今の数になったのかをお話していきます。

前回、ピアノの鍵盤の数は「88鍵(7オクターヴ+4鍵)」が標準というお話をしました。

これは、今から約130年前の1890年代から用いられている音域(鍵盤数)になります。

ピアノを発明した人物として知られるバルトロメオ・クリストフォリ(Bartolomeo Cristofori di Francesco、1655年 – 1732年)のピアノは1690年代当時、54鍵でした。
最初に生まれたピアノは、50鍵前後4オクターヴの音域を持ち、それが改良によってより幅広い音域へと拡大されました。

さて、このピアノの音域拡大において、興味深い事実があります。


それが、ベートーヴェンとの関係です。


ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770年 – 1827年)は、当時からとても有名な音楽家であったため、オーストリア、パリ、ロンドンなどのピアノ製造メーカーは新しいピアノの試作品をよく送って、ベートーヴェンは新しいピアノの性能を探るということをしていたのです。

ベートーヴェン自身も、新しいものが好きでミーハーな部分があり、届いたピアノでこれは使える!と思ったものは直ぐにそのピアノで曲を作っていました。


いつ頃、どんなピアノを使っていたかということが記録に残されているので、それと、ベートーヴェンが作ったピアノソナタで用いられる音域とを照らし合わせると、当時彼がピアノの最大能力を毎度毎度引き出そうとしていたことが分かります。

ベートーヴェンが用いていたとされる主なピアノについて表にまとめたものを下記に記します。

画像1:ピアノの音域の変化

ヴァルターのピアノは5オクターヴとF#とGの2音が音域となります。
これは、ベートーヴェンの作品31.1-2-3までのソナタに当てはまり、ソナタ1番のピアノソナタはf mollで、F/ファが主音なのですが、当時使えるピアノがF/ファからF/ファまでフルに使えるからこの調にしたのではないかと考えることが出来ます。

ベートーヴェンがピアノソナタを書く際にその時用いていたピアノの音域を意識していたことは明らかで、時には音域に合わせるための変更も行っていました。

画像2:ベートーヴェンピアノソナタ第1集ヘンレ版よりp169 第9番ホ長調作品14-1第一楽章

画像2の152-154小節にかけて、左手のE/ミの音が()に入っています。これは、初版譜にはこの音が書かれていなかったからでした。
この曲は1798-1799年にかけて作曲されたものであり、当時のピアノはシュタインのピアノにあたります。シュタインのピアノは、低音はまだF/ファの音までしかなく、音を省略して書いていたとされています。
現代のピアノでは出せる音域になっているので、このようにそこを補足して記載されている楽譜も存在します。

画像3:ベートーヴェンピアノソナタ第1集ヘンレ版よりp91 第4番変ホ長調作品7第四楽章

音域に合わせるための変更がこちら(画像3)です。
76小節目から、右手が同じ音型の動きを繰り返し次第に高音へと上がっていきますが、78小節目4拍目は「ソファミファ」の音型になってもおかしくないところが「ミファミファ」とここだけ音型が異なります。

この曲は1796-1797年にかけて作曲されたものであり、当時のピアノはシュタインの5クターヴもしくはヴァルターの5オクターヴとF#とGの2音までの音域のどちらかと予想されますが、この曲の音型から、この曲を作曲した当時はまだG/ソの音がなかったために音型が異なると考えることができます。


また、画像1の表を見ていただくとわかるように、音域(鍵盤)は高音に向けて多く新たに作られています。

ピアノの音が華やかになるという意味もありますが、低音は弦をしっかりと張る必要があり、当時の製造技術では低音を多く作ると木製で作られたピアノは壊れやすく、技術的にも難しかったという理由もあるようです。


このようにピアノの鍵盤は、偉大な作曲家の作品と共に改良に改良を重ねて音域を広くしていき、現在の「88鍵(7オクターヴ+4鍵)」になりました。

今回ご紹介したベートーヴェンのソナタ、時代とピアノの音域の変化を意識しながら今一度聴いてみるのも面白いですね。


次回はペダルについてです。グランドピアノとアップライトピアノのペダルの違いについてお話をしていきます。


石田真亜沙
(センター南教室・ピアノ/絶対音感/ソルフェージュクラス担当)

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