1オクターブとは?何音?〜ピタゴラス音律の計算〜



現在、ある音から、その音の2倍の周波数までの範囲を1オクターブと言い、それらは12の半音から構成されていて、隣り合う音の周波数比はどこも1.0594631(2の12乗根)となる平均律で調律されている、ということは音楽を学んでいる人なら知っていることでしょう。

しかし「そもそも何故1オクターブは12音なの?」と聞かれて即答できる人は少ないように思いますが、どうでしょう?

「ピアノの1オクターブには、白鍵7つ黒鍵5つで、計12音あるでしょ、だから」なんて答えたなら、音楽の勉強を基礎からやり直しですね。

今回のブログでは、この質問の解答を説明したいと思います。

そもそも1オクターブを12音に区切ったのは、今から2500年以上も前の紀元前6世紀、哲学者でもあり数学者であったギリシャのピタゴラス(BC580頃~BC500頃)でした。

ピタゴラス像

彼は「万物の根源は数である」と考えており、音楽における音や和音の構成から惑星の軌道まで、多くの現象には数の裏付けがあると信じていたようです。(数学オタクの元祖です)

特に音楽については自ら弦楽器や笛で実験し、
弦の長さと振動数(周波数)は反比例すること(弦の長さが1/2になると周波数は2倍になる)
2音を重ねた時、この2音の周波数の比が2とか3の簡単な整数比ほど響きが良い
という法則を発見していました。

当時は便利な調律器具などありませんから、ピタゴラスは上記の法則だけをを駆使して、この問題に取り組まざるを得ませんでした。

まず、弦を任意に張れるような小さなハープみたいなものをイメージしてもらえますか?
・とりあえず、ある程度長い弦を張り、これを1音目(基音)としましょう。
・次に、基音の周波数の2倍の弦(基音の弦の長さの1/2)を用意し基音の弦から離して張ります。この2つの弦の周波数比は一番簡単な2ですから、同時に弾くと高さは違いますがそれぞれが発する倍音の周波数は共通で性質は全く同じなので同じ音に聞こえ完全調和します。
・この2つの弦の範囲(周波数比1~2以内)を1オクターブとして、その範囲の中を、いくつの音で埋めること(何本か弦を張ること)が数学的に考えて合理的かとピタゴラスは考えました。(数学オタクらしい)

そして、音と音との調和を維持していくことを絶対ルールとして音を生み出していくことにしました。

そのルールとは、簡単な整数比ほど響きが良いのだから周波数比3の3倍音を選び、オクターブ(周波数比1~2以内)に入るまで周波数を2で割ること(音は同じでオクターブ下げること)を繰り返し、オクターブ内に音を生み続けると言うものです。

・まず最初に、基音と調和する音として周波数比3の音を選びます。そのままでは1オクターブ(周波数比2以内)を超えてしまいます。そこで、その音の周波数を1/2にしてオクターブ低い同じ音にし、周波数比2以内になるようにして基音と周波数比1.5の音を得ました。
→1 × 3 × 1/2 = 1.5

・次も同様に、この音から周波数比3の音を選びオクターブ内に入るように計算します。1.5を3倍すると4.5になり1オクターブを大きく超えるので、周波数を(1/2 × 1/2 =)1/4にすれば(2オクターブ下げれば)、周波数比1.125の音が得られます。
→1.5 × 3 × 1/4 = 1.125

・以後同様に、得られた音の3倍音をオクターブに入るように周波数調整して計算を続けます。

煩雑になるので計算結果を示しませんが、11回繰り返して計算しても得られた音の周波数比は2以内に収まります。(オクターブ内)

ところが12回目の計算では(省略 = )2.0273となり、ほぼ2とみなすことができるので1オクターブにたどり着いたとして、ピタゴラスは計算をここで打ち切りました。

結果として、基音を含め12の音で1オクターブが埋められることとなったのです。(ピタゴラス音律

要するに、ピタゴラスは単純な数の比を強く信奉し、2倍音、3倍音の関係を使うだけで新しい音を生み出し続け、より小さな間隔の音でオクターブを埋めたのですが、大きな欠点があり残念ながら現在ピタゴラス音律は使用されておりません。

詳細は略しますが、その欠点とは以下です。
・綺麗に響かない音が沢山できること。特にドとミを同時に弾くと響きが悪い。
・ほぼ2とみなしたことによるツケが音律の不具合を増加させたこと。

どちらの欠点もピタゴラスの設定した前提では数学的に絶対に解決できないものなので、ピタゴラス音律は採用されず、以後2000年以上、音楽家や音楽学者は不具合のあるピタゴラス音律の抜本的改善に努め、純正律平均律へと発展していくのですが、1オクターブを12音に分割するということだけは変わらず今に至ります

もし、ピタゴラスが5音、あるいは7音までの計算に留めてしまっていたらどうなっていたでしょう?

きっと、作曲される曲は童謡か演歌のような簡単な曲ばかりで、調も長調/短調のいずれか一つの調しか選べず転調もないので、精神的高揚感もカタルシスもない曲で溢れていたのではないでしょうか。そんな音楽世界を想像するだけで恐ろしいですね。

改めて、1オクターブを12音で埋めてくれたピタゴラスに、感謝してもし過ぎることは有りませんね。



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