音楽エッセイ|オーケストラは音量100倍!?コンサートの不思議

<スタッフブログ>

ある人が「ピアノ独奏」のリサイタル鑑賞のため音楽ホールに行ったとします。そして今度は別の日に、同じ人が同じ音楽ホールで開催された「ピアノ協奏曲」を鑑賞しに行きました。

どちらの演奏会にも大変満足して、無事に帰宅したそうです。

これってよくある話ですが、不思議ではないですか?

ヒントは、音楽ホールの舞台に上がる人数です。ピアノ独奏の場合は当然1人です。ピアノ協奏曲の場合は、独奏者にオーケストラが付きますから約100人ぐらいになるでしょう。

1人     約100人

すると、どちらもフォルテッシモで弾いた場合、ピアノ独奏に比べピアノ協奏曲の場合は、単純計算で約100倍の音圧が聴衆の身に降りかかってくるわけです

しかしその時を予測して耳を塞いだり、音楽ホールから逃げ出したり、身の危険を感じる人はいませんよね。

しかし、例えば6kgの赤ちゃんをお腹の上に乗せて遊ばせてあげるお父さんの場合だと、もし急に100人の赤ちゃん(6×100=600kg)がいっぺんにお腹の上に乗ってきたら間違いなく圧死するでしょう。

この人は、ピアノ協奏曲のコンサートからよく無事に帰宅できたと思いませんか?

実は、このコンサートの不思議を不思議でなくしたことが、現代の人間「ホモサピエンス」がヒト属の唯一種として生き残った理由につながるのです。

具体的には、「人間は五感で受けた刺激量(心理量)は、外界からの刺激量(物理量)そのものではなく、物理量の対数に比例する」という生理的なメカニズムを、ホモサピエンスが誕生以来、長い期間を通じて身に付けたことに因ります。

コンサートの例ですと、物理的な音圧が100倍になったとしても、耳で受けて脳で認知する心理量は、100の対数(100=10の2乗→対数は2)である2倍としてしか感覚されないということです。音感覚で2倍増加というのは、「車の中」の状態から「電車の中」の状態への変化と同程度ですから、慌てて音楽ホールから逃げ出さなくても良いわけです。

それでは、なぜ人間はこんな巧妙なメカニズムが必要だったのでしょう。

少なくとも、コンサートから無事に帰宅するためではないですよね。

それは、刺激量が大きい時は感覚を鈍くし、刺激量が小さい時は鋭くするようにする為には、外界刺激を対数変化で認知する機能を身に付けることが絶対的に必要だったからです。

つまり、ホモサピエンスが誕生した20~30万年前の地球で、力の強くないホモサピエンスが生き残っていくためにまず必要とされたのが、敵をいち早く認知する能力でした。

その為にも小さな音の変化、範囲を聞き取り易く、かつ大きな音に小さな音が掻き消されないよう、こうした生理メカニズムを身に付けることが必要とされたのです。

まさに、生存本能、自然淘汰の圧力が、ゲノムを書き換え、遺伝子を通じて現代の私たちに伝わっていることを思うと、大きな感動を覚えます。

なお、外界刺激の対数変化での認知というメカニズムは、聴覚だけでなく人間の五感全てに共通であることも知られており、人間というものの偉大さを改めて認識します。


>>教室TOP