ポップス系の音楽の世界では、人気曲の移り変わりが激しいのが常ですが、クラシック音楽の世界では、長い間に楽曲の評価は定まり、人気曲の序列はあまり変化していないようにみられます。しかし、そんな世界でも良く観察していると人気曲の変化というのは見られます。
一番有名なのは、何といってもヴィヴァルディの「四季」でしょう。
今や、世界のクラシックチャートNo.1の人気曲ですが、第二次世界大戦前は誰も知らない作品でした。それを、1955年イタリアの室内楽団「イ・ムジチ」がアルバムを出して、世界各地で演奏したことから現在では最高の人気曲になっているのです。
また、モーツァルトの交響曲第25番ト短調K.183も、1985年に日本でも公開された映画「アマデウス」の中で、サリエリの不安を煽る印象的な使われ方をしたゆえ、一躍、交響曲40番、41番に次ぐ人気曲となりました。
もう一つ今回取り上げたいのが、ラフマニノフ作曲の交響曲第2番ホ短調です。

ラフマニノフと言えば、4曲あるピアノ協奏曲が有名で、特に第2番ハ短調は超人気曲になっています。しかし3曲ある交響曲はあまり知られておらず、この曲もラフマニノフの死後埋もれていましたが、1970年代に指揮者のアンドレ・プレヴィンが精力的に演奏会で取り上げ、1973年にこの曲のアルバムを発表し人気を集め、続々と複数の指揮者がアルバムを出すに至り、ロシアロマン派の代表曲として全世界的な人気曲となりました。
しかし、ここに至るまでには決して平坦な道のりではありませんでした。彼が、交響曲として最初の第1番を作曲し、初演したのは1897年だったのですが、この時記録的な大失敗をしたことで、ラフマニノフは強い神経衰弱と自信喪失に陥り、その後数年間作曲できない状態になってしまいました。その間、良い精神科医に巡り合えたり、ロシアの文豪チェーホフとの出会いもあり回復に向かい、1901年にピアノ協奏曲第2番ハ短調を完成させ、やっと大成功を収めたのです。
それから、交響曲第2番にとりかかり、1908年の初演では好意的に受け入れられたのですが、1時間もかかるこの曲に対して「退屈だ」とか「形式が緩んでいる」との一部の批評に心を痛め、また自信を喪失してしまいました。挙句にこの曲の演奏について「指揮者が勝手に削って演奏しても良い」との宣言を出す始末です。以後この曲を演奏する人はまれで、時にはでたらめに省略された形で演奏されたり、アルバムが出されたりするほどでした。
これほど避けられたきた曲の再発見に貢献した人こそ、1970年代当時の人気指揮者アンドレ・プレヴィンだったのです。彼も省略版ではこの曲の真価を発揮できないとして、フルヴァージョン版を積極的に演奏会でとりあげ、前述のように、今では「音に聴くラブロマンス」とも形容される名曲として、特に第3楽章アダージョの甘美なメロディーは世界的な人気曲になっています。
日本で、この曲の認知と人気上昇に大きく貢献したのは、2013年頃さかんにTVで流された、マンドリン演奏に編曲されたこの曲の第3楽章を使用した、缶コーヒーのCMではないかと思います。サッカー選手の三浦知良さんが、この曲が流れゆったりくつろいでいる中で「いいね、好みですねこれ」とつぶやくヴァージョンが、その音楽と共に印象的です。その時は、ラフマニノフ作曲とは知りませんでしたが、後に知り、全曲を聴くに至って大好きになりました。Youtubeで当時のTVCMが今でも視聴できますから、ご興味ある方はどうぞ。

